国譲りが成り、地上を治める準備が整いました。天照大御神(アマテラスオオミカミ)は、はじめ我が子・天忍穂耳命(アメノオシホミミ)を降ろそうとしますが、ちょうどその子に赤子が生まれたため、「では、この孫を」と、幼き邇邇芸命(ニニギノミコト)に地上を治める役目を託すことにしました。
天照は孫に、三つの尊い宝、八咫鏡(ヤタノカガミ)、八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)、そして大蛇の尾から出た草薙剣(クサナギノツルギ)を授けます。「この鏡を、私の御魂(みたま)と思って、大切にお祀りしなさい」。これが、皇位のしるしとして受け継がれる三種の神器のはじまりです。数柱の神々もお供として付き従いました。

邇邇芸命が天から降りようとすると、道の途中に、まぶしく光る不思議な神が立っていました。天宇受売命が進み出て名を問うと、それは地上の神・猿田毘古神(サルタビコノカミ)。「天孫をお迎えし、道案内をするために参りました」と告げます。こうして道案内を得た一行は安心して進みました。

邇邇芸命は、幾重にもたなびく雲を威勢よく押し分け、天の浮橋を渡って、筑紫の日向にある高千穂の峰へと降り立ちました。この地を「朝日のまっすぐ射す、夕日のよく照る、まことに良い土地だ」と喜び、宮を建てて住まいます。天つ神の御子が、いよいよ地上に根を下ろした瞬間でした。やがてその血脈は初代・神武天皇へと連なり、神々の物語は、人の世、すなわち歴史の時代へと静かに受け継がれていくのです。

のちに邇邇芸命は、山の神の娘・木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)と結ばれます。その血筋は、海の宮をめぐる物語をへて、初代の天皇・神武天皇(ジンムテンノウ)へとつながっていきました。混沌の海から始まった神々の壮大な物語は、こうして人の世の歴史へと流れ込んでいきます。天と地、光と闇、生と死。そのすべてが織りなす神代の絵巻は、今もなお静かに、私たちの足もとのこの国に息づいているのです。