造化三神が姿を隠したあとも、高天原には次々と神が生まれていきました。泥がようやく大地の形をとりはじめた頃に現れた国之常立神(クニノトコタチノカミ)、豊かな雲や野を思わせる豊雲野神(トヨクモノノカミ)。この二柱もまた、対を持たない独神でした。
ところが、ここから神々のかたちが変わっていきます。以後は男女が対になって生まれるようになったのです。泥や砂、芽吹きや杭、そして人の心の恥じらいまでを名に負った神々が、五組の夫婦として次々に登場します。

国之常立神から数えて七つの世代、これを「神世七代(カミヨナナヨ)」と呼びます。そしてその最後、七代目に立ったのが、伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の二柱でした。名前には「誘(いざな)う」という意味が込められ、互いに惹かれ合い、新しいものを生み出す力を秘めた、はじめての“夫婦の神”です。

天にいる先輩神たちは、まだ固まりきらず漂うばかりの下界を見おろし、二柱に立派な矛を授けて命じました。「この漂える国を、しっかりと整え、固め、完成させなさい」と。世界を“生む”壮大な仕事が、いよいよ始まろうとしていました。

二柱は顔を見合わせ、静かにうなずき合いました。まだ何ひとつ定まらない、混沌とした下界。その頼りない眺めを前にしても、二人の胸には確かな高鳴りがありました。これから自分たちの手で、島を、山を、川を、そして数えきれないほどの神々を生み出していく。世界のかたちそのものを決める大仕事が、いま始まろうとしていたのです。