国土を生み終えた二柱は、続いて、そこに満ちる自然の神々を生みはじめます。山の神、海の神、川の神、風の神、木の神、野の神。世界を彩るあらゆる力が、伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)のもとから生まれ出ていきました。
ところが、最後に火の神・火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)を生んだとき、悲劇が起こります。燃えさかる炎の神を産んだ伊邪那美は、その火に身を焼かれ、床に伏せってしまったのです。苦しむ彼女の吐いたものや流したものからさえ新たな神が生まれましたが、伊邪那美はついに息を引き取り、死者の国・黄泉(よみ)へと旅立ってしまいました。

最愛の妻を失った伊邪那岐は、地に伏して激しく泣きました。その涙からも神が生まれたと伝えられます。やがて悲しみは怒りに変わり、伊邪那岐は腰の十拳剣(トツカノツルギ)を抜くと、我が子である迦具土の首を斬り落としてしまいました。

すると、飛び散った血や、切り分けられた亡骸のひとつひとつからも、雷や刀、山にまつわる新たな神々が次々と生まれ出でます。命を生む喜びと、命を失う悲しみ。そのどちらもが、新しい神々を生み出していく。世界のかたちが、痛みとともに深まっていくのでした。

けれど、伊邪那岐の悲しみは、それでも癒えることはありませんでした。冷たくなった妻の亡骸にすがって、彼はある決意を固めます。「もう一度、あの人に会いたい」。生きた者が決して足を踏み入れてはならない、死者の国・黄泉(よみ)へ。伊邪那岐は、たった一人で下りていこうとするのです。